在来種330種を、静岡と北海道で自家採種を中心に自然農を行っている 農業法人 日本豊受自然農代表の由井寅子です。
10月26日から秋の臨時国会で、種苗法改定案が審議されようとしていますが、現在、私どもは、「種苗法改定案の廃案を求める国会請願署名」を皆様にもご協力いただき、集めています。皆様から署名と一緒にいただくメッセージを読ませていただいて、これはどうしても皆様に感謝とお願いを伝えたいと思い、今日に緊急にメッセージを発表させていだだきます。
皆様からのメッセージ
まず皆様からの署名とともに送っていただいたメッセージをリンクにて紹介させていただきます。
種苗法改定案
秋の臨時国会で「種苗法改定案」が審議されますが、これは大変問題のある法案だと考えています。
というのも、今回の法改正には政府、農林省が主張する法改正の大義名分に嘘や偽善があるからです。
農林省や改定賛成派といわれる人々は、シャインマスカットなどの日本で開発・登録された種苗が中国や韓国などに流出しないために緊急にこの種苗法を改正しなければならないという宣伝、主張をインターネットではよく目にしますが、ここにも嘘があります。
たとえば、シャインマスカットを例に挙げれば、海外で栽培されるようになったのは、シャインマスカットの育種権を持つ農研機構(農林水産省から分離した食料・農業・農村に関する研究開発を行う機関)が、海外品種登録を決められた4年以内にしなかった事実が隠されています。日本でも海外の国際登録されていない様々な品種は農家が自由に栽培していますので、シャインマスカットが海外で栽培されるのは当たり前です。そのために海外流出を防ぐためには国内法を改正しても、意味がありません。海外で権利を主張するには、まず国際品種登録をすることしか手立てはありません。
これは山田正彦元農相が制作、原村政樹監督、印鑰智哉さん作成協力で今月公開となりましたドキュメンタリー映画『タネは誰もの』でも詳しく取り上げられています。また、この映画の中では無断で持ち出され、豪州で栽培された山形のサクランボウの品種では、山形県と農家が現行の種苗法の枠組みで弁護士を通じて、豪州政府にクレームをすることで、和解し解決した事例も当時担当した弁護士さんのインタビューも紹介されています。
一方で、大義名分とは異なり、今回の種苗法改正で大変大きな問題と私どもが考えるのは、日本政府も批准する「食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約」が規定する農民の「自家採種・自家増殖の権利」を大幅に制限する改定案になっていることです。
8000種以上の登録品種では、種をとって植える自家採種も、またお芋さんのように種芋から増やしたり、いちごのようにランナーから苗を増やしたりする自家増殖も、育種権利者の許可をもらわない限り、一律、例外なく禁止するという、日本の農家と農業にとても大きな影響を与える改定案です。
それも米、麦、大豆などの主要穀類までも例外なしという海外でも見られないような農民の権利を制限するものです。食料安全保障の観点からも食料危機の場合などに大きなリスクを持つ改定となっています。
種苗法違反の罰則
さらに、もしこれに違反すれば、10年以下の懲役、個人の農家では1000万円以下の罰金、私どものような農業法人であれば、3億円以下の罰金、さらに共謀罪(きょうぼうざい)の対象と農家を廃業しなければならないほどの常識はずれなペナルティーが科せられています。なぜ、先祖代々続けてきた自家採種の権利が農家に制限され、さらにこのような法外な罰則が科せられるのでしょうか。
また、農林水産省は、登録品種は1割ぐらいだから影響はないとか、自家採種・自家増殖なんて、もう行っている農家なんて時代遅れで少ないなどというデマ情報も流されていますが、登録品種は人気品種なので、かなりな農家が影響をうけます。米、麦、芋などの栽培では数割の栽培シェアになる都道府県も多いです。また、過半数の農家がなんらかの形で自家採種・自家増殖をしているという調査を農林省が行っていた件も山田正彦元農相が話していましたので、自家採種・自家増殖を行っている農家は多いのです。
私どもも在来種の農業ですがミナミカオリなどの小麦などが許可なし、購入しなければ、種とりができなくなります。また在来種は大丈夫だから、影響はないという説明にもトリックがあります。この法改正に合わせ、国内外の種苗企業が農家を提訴しやすいように今回、遺伝子検査でなく特性表、目視だけで似ているといっただけで農家が訴えられるようになりました。遺伝子交雑もあり、また種子は多様なものなので、海外でも多くの農家が種苗企業に訴えられ破産していますので、とても心配です。
これだけ大きな問題をその争点を全国の農家にしっかり説明せずに、法案を通そうというのは大変おかしなことです。
そもそも、タネというのはすべての命の源です。大自然からの贈り物です。そして昔から農家がタネ採りをしながら守り育ててきた、公共の財産みんなのものです。
この生命というものに、また何百年も前から地域の農家が栽培の中で品種を選抜して改良してきたタネを、ちょっと後から企業が品種改良したからといって、勝手に生命に特許、知的財産権を主張するという考え方自体、おかしなことだと思います。
ハイブリッドなF1種のタネ、遺伝子組み換えやゲノム編集など農民が種とりをできない高価なタネで金儲けするグローバル展開する巨大な種苗企業が中心となって、その権利が近年主張されるようになりましたがそれもわずかここ2〜30年のことだということも知っておく必要があります。そもそも大自然からの贈りものであるタネ、生命に特許を認める生命特許には、ドイツなども反対の立場をとっています。
さらに、政府は農業競争力強化支援法という法律を制定し、登録品種8000種の多くの権利をもつ公共機関に対して、外国企業を含む民間の種苗メーカーに そのタネの権利を譲渡しなさいという法律まで定めています。
改定法案 農業競争力強化支援法
種子その他の種苗について、民間事業者が行う技術開発及び新品種の育成その他の種苗の生産及び供給を促進するとともに、独立行政法人の試験研究機関及び都道府県が有する種苗の生産に関する知見の民間事業者への提供を促進すること。
先祖代々、日本の農家と日本政府と地方公共団体が共同で開発してきたタネの権利を外国企業に売り渡せるようにするというのは、このことこそ国を売る国民や農家を裏切る売国の行為かと思います。これがTPPや米英とのFTAなどの利権を命より優先する不平等で国際条約の圧力があるならば、基本的人権を侵害するものなのであり、これらの条約の廃止を目指さなければなりません。
またタネの国際ビジネスというのは、化学肥料の7割と農薬の8割を扱う3つの企業グループ、バイエル(独)社(旧モンサント社)、コルテバ・アグリサイエンス(米国)社(旧ダウ・デュポン社)、シンジェンタ(中国)社(旧ケムチャイナ、もとチバガイギー社)に集約され、この3社が世界のタネビジネスの7割を支配しています。北米でもラテンアメリカでも欧州でも、アフリカでも、インドでも、中東でも世界各国で、自分たちの利潤を優先するこれらのグローバル企業と農家で大きな争いになっています。政府と農林省はお金があるこれらのグローバルな利権の言いなりで今回の種苗法の改定を行っているのではないかとも疑いたくもなります。
さらに野菜のF1種子はこれらの企業が扱うことで公共での種子より10倍ぐらいに値上がりしました。米でもF1の種子は10倍ぐらいに値上がりするときいています。小麦でゲノム編集の種子の栽培が海外でも始まったと聞いています。インドでは、綿花の種子を海外に握られたため、30万人もの農民が自殺に追い込まれた悲劇も起こっています。
さらに、タネの権利をこれらの企業が持つと、かれらの利益の出るタネしか供給されなくなり、もともと地域にあった在来種の多様性が失われるリスクもあります。農業競争力強化支援法では品種を集約することまで書かれています。
農業資材であってその銘柄が著しく多数であるため銘柄ごとのその生産の規模が小さくその生産を行う事業者の生産性が低いものについて、地方公共団体又は農業者団体が行う当該農業資材の銘柄の数の増加と関連する基準の見直しその他の当該農業資材の銘柄の集約の取組を促進すること。
これらのことを見てきただけでも、今回の種苗法改定は、日本の農家の多くの農家にとって、とても大きなダメージを与える法改定になります。
しかし、今回の種苗法改定の影響は農家だけの問題にとどまりません。
ゲノム編集作物
昨年秋に、政府は、作物の遺伝子を編集、改変して新しい品種をつくる「ゲノム編集」された作物を、通常の品種改良と異ならないから、「遺伝子組み換え」とは異なり、安全であると、とんでもない判断をしています。業界からの圧力があったからかもしれません。
ちなみにEUもニュージーランドも流通や販売を安全でないため禁止しています。今日本では、表示もせずに許可も必要なく、ゲノム編集で遺伝子を改変された食品が流通できるようになっています。
タネの権利をグローバル種苗企業にとられてしまったら、私たちは農薬、化学肥料とセットで販売するこれらの企業の、種取りのできないF1のタネや、ゲノム編集、遺伝子組み替えのタネから栽培された農作物の食べ物しか選択肢がなくなるリスクさえ懸念されます。
さらに、問題なのは日本国内でゲノム編集された作物も自由に栽培されるようになっています。
これは、食べた人の遺伝子汚染のリスクだけにとどまりません。また生物多様性などを考慮すると人間のみならず動植物などにも取り返しのつかない遺伝子汚染を引き起こす危険性もまであります。
また、遺伝子は1ヶ所、編集すると何百箇所と遺伝子自身が改変をすすめるため、どのような不自然な人為的な遺伝子に変化するのかわからないのです。そして、世代を経て、奇形などの影響が、孫、ひ孫の代に出てくる可能性もあります。
本当は神様の領域でもあるような、遺伝子を人間ごときが傲慢にも編集などしてはいけないものではないかと私は思っています。遺伝子を操作する技術については、特に慎重な対応が必要だと思います。
また、日本でゲノム編集の農作物が栽培されるようになると、日本の国土や農作物はゲノム編集汚染国と認定され、将来はEUなどにオーガニックな農産物を輸出できなくなるようなリスクすらあります。
ゲノム編集の安全性の問題は、印鑰 智哉さんの講演や、ジェフリースミスさんの見解をYouTubeにアップしています。また、世界の多くの科学者がその危険性を指摘しています。
そして、除草剤グリホサートとセットでつかわれる遺伝子組み換えの作物では必須ミネラルなどは1/100以下とかに栄養がなるという研究まであります。すでに、ゲノム編集の米の品種や小麦の品種も開発されています。米の検査基準もこの夏大幅に見直しが行われ、海外からの米の輸入が本格化し、このままいくと主食の米すら日本で農家が栽培することすら難しい時代がくるかもしれません。そういったときに食の安全はどうなるのでしょうか。
この法案が通るかどうかというのは、私たちの命や、健康を守るために重要なのはもちろんのこと、そしてこれは私たちの世代だけでなく、子どもや孫、ひ孫などの世代の健康や幸せを奪うことになる大変重要な法案です。
そして日本の消費者が無関心でありこれらの遺伝子組み換えやゲノム編集の農作物を買い続けることになれば、南北アメリカをはじめこれらを栽培する地域の環境や生態系、土壌は遺伝子汚染、農薬、化学肥料で大きく破壊され、これらの地域に暮らす人々の健康や幸せまで奪っているのです。
無関心で生きるのでなく、これを機にぜひ多くの方がめざめられ、立ち上がっていただき、お金より命を大切にする世の中になりますことを願い今回のメッセージといたします。
引き続き、種苗法改定案を廃案を求める国会請願署名やこの問題の告知活動、議員さんなどへの働きかけなどにもご協力ください。